、子爵はポケットから、瑠璃子の手紙を取り出した。丁度|敵《かたき》から来た投降状でも出すやうに。

        三

 凱旋の将軍が、敵の大将の首実検をでもするやうに、荘田は瑠璃子が杉野子爵宛に寄越した手紙を取り上げた。得意な、満ち足りたと云つたやうな、賤しい微笑が、その赤い顔一面に拡がつた。
「うむ! 成る程! 成る程!」
 舌鼓をでも打つやうに、一句々々を貪るやうに読み了ると、彼は腹を抱へんばかりに哄笑した。
「はゝゝゝゝ。強いやうでも、やつぱり女子《おなご》は弱いものぢや、はゝゝゝゝ。なにも、あのお嬢さんを嫁にしようなどとは、夢にも考へてゐなかつたが、かうなると一番若返るかな、はゝゝゝゝ。ぢや、杉野さん、どうかよろしくね。あの証文全部は、お嬢様に、結婚の進物として差しあげる。さうだ! 差し上げる期日は、結婚式の当日と云ふことにせう。それから、支度金は軽少だが、二万円差し上げよう。さう/\、貴君方に対するお礼もあつたけ。」
 王女のやうに、美しく気高い処女を、到頭征服し得たと云ふ欣びに、荘田は有頂天になつてゐた。彼は、呼鈴《ベル》を鳴らして女中を呼ぶと、
「お嬢さんに、さう云ふ
前へ 次へ
全625ページ中212ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング