とを考へると、何も考へてをられなくなつたのだ。」
 父は、さう云ひながら、心の裡の苦しさに堪へられないやうに、頻りに身を悶えた。
「が、扉《ドア》の外でお前が突然叫び出した声を聞くと、刀を持つてゐた俺《わし》の手が、しびれ[#「しびれ」に傍点]てしまつたやうに、何うしても俺《わし》の思ひ通《どほり》に、動かないのだ。未練だ! 未練だ! と、心で叱つても、手が何《ど》うしても云ふことを聴かないのだ。俺《わし》は、今初めてお前に対する父としての愛が、名誉心や政治上の野心などよりも、もつと大きいことが分つたのだ。俺《わし》は、社会上の位置を失つても、お前の為に生き延びようと思つたのだ。破廉恥罪の名を被《き》ても、お前の父として、生き延びようと思つたのだ。名誉や位置などは、なくなつても、お前さへあれば、まだ生き甲斐があると云ふことが、分つたのだ。いや名誉や野心のために、生きるのよりも、自分の子供のために、生きる方が人間として、どれほど立派であるかと云ふことが、今やつと分つたのだ。俺《わし》は、今光一を追出したことを後悔する。親の野心のために、子を犠牲にしようとしたことを後悔する。瑠璃子! お前
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