は、人の心を腐らすものだ。彼奴までが、十何年と云ふ長い間、目をかけて使つてやつた彼奴迄が、金のために俺《わし》を売つたのだ。金のために、十数年来の旧知を捨てゝ、敵の犬になつたのだ。それを思ふと、俺《わし》は坐つても立つてもをられないのだ!」
「木下が、何《ど》うしたと云ふのでございます。」
瑠璃子も、父の激昂に誘はれて桜色に充血した美しい顔を、極度に緊張させながら、問ひ詰めた。
「此間、彼奴が持つて来た軸物を、何だと思ふ、あれが、俺《わし》を陥れる罠だつたのだ。あれは一体誰のものだと思ふ。友達のものだと云ふ、その友達は誰だつたと思ふ。」
父は、眼を熱病患者のそれのやうに光らせながら、ぢつと瑠璃子を見下した。
「あれは誰のものでもない、あの荘田のものなのだ。荘田のものを、空々しく俺《わし》の所へ持つて来たのだ。」
「何の為でございましたらう。何だつてそんなことを致したのでございませう。でも、お父様はあの晩、直ぐお返しになつたではございませんか。」
瑠璃子が、さう云ふと父の顔は、見る/\曇つてしまつた。彼は、崩れるやうに後の腕椅子に身を落した。
「瑠璃さん! 許しておくれ! 罠をかけ
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