り」はママ]相手にしようとはしなかつた。相手は、父にさう云はれると、恐縮したやうに、頭をかきながら、
「閣下に、さう手厳しく出られると、一言もありません。が、諦めのために見て戴きたいのです。贋物は覚悟の前ですから。持つてゐる当人になると、怪しいと思ひながら、諦められないものですから。ハヽヽヽヽヽヽ。」
四
久し振で、訪ねて来た旧知の熱心な頼みを聞くと、父は素気《すげ》なく、断りかねたのであらう、それかと云つて、書画を鑑定すると云つたやうな、静かな穏かな気持は、今の場合、少しも残つてはゐないのだつた。
「見ないことはないが、今日は困るね、日を改めて、出直して来て貰ひたいね。」父は余儀なささうに云つた。
「いや決して、直ぐ只今見て下さいなどと、そんな御無理をお願ひいたすのではありません。お手許へおいて置きますから、一月でも二月でも、お預けしておきますから、何うかお暇な時に、お気が向いたときに。」相手は、叮嚀に懇願《こんぐわん》した。
「だが、夏珪の山水なんて、大した品物を預つておいて、若《も》しもの事があると困るからね。尤も、君などが、さうヒヨツクリ本物を持つて来よう
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