書を買入れて、父に対する債権者となつてから、一体何うしようと云ふ積りなのかしら。卑怯にも陋劣にも、金の力であの清廉な父を苦しめようとするのかしら。さう思ふと、瑠璃子は、女ながらにその小さい胸に、相手の卑怯を憤る熱い血が、沸々と声を立てゝ、煮え立つやうに思つた。
父の借財は多かつた。藩閥内閣打破の運動が、起る度に、父はなけ無しの私財を投じて惜しまなかつた。藩閥打破を口にする志士達に、なけ無しの私財を散じて惜しまなかつた。父が持つて生れた任侠の性質は、頼まるゝ毎に連帯の判も捺した。手形の裏書もした、取れる見込のない金も貸した。さうした父の、金に対する豪快な遣り口は、最初から多くはなかつた財産を、何時の間にか無一物にしてしまつた。が、財産は無くなつても、父の気質は無くならなかつた。初めは親類縁者から金を借りた。親類縁者が、見放してしまふと、高利貸の手からさへ、借ることを敢てした。住んでゐる家も、手入は届いてゐないが、可なりだゞつ広い邸地も、一番も二番もの抵当に入つてゐることを、瑠璃子さへよく知つてゐる。
金力と云つたものが、丸切り奪はれてゐる父が、黄金魔と云つてもよいやうな相手から、赤児
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