ない。さう思ふと、瑠璃子は又更に自分の胸の処女の誇が、烈火のやうに激しく燃えるのを感じた。
「本当に口惜しうございます。あんな男が妾《わたくし》を。それに杉野さんが、そんな話をお取次ぎになるなんて、本当にひどいと思ひますわ。」
 瑠璃子は、興奮して、涙をポロ/\落しながら云つた。それは口惜しさの涙であり、怒《いかり》の涙だつた。
「だから、聴かない方が、いゝと云つたのだ。さうだ! 杉野が怪しからんのだ。あんな馬鹿な話を取次ぐなんて、彼奴が怪しからんのだ。が、あんな堕落した人間の云ふことは、気に止めぬ方がいゝ。縁談どころか、瑠璃さんには、何時までも、茲《こゝ》にゐて貰ひたいのだ。殊に、光一があゝなつてしまへば、お父様の子はお前|丈《だけ》なのだ。百万円はおろか、お父様の首が飛んでも、お前を手離しはしないぞ。ハヽヽヽ。」
 父は、瑠璃子を慰めるやうに、快活に笑つた。瑠璃子の心も、父に対する愛で、一杯になつてゐた。何時までも、父の傍にゐて、父の理解者であり、慰安者であらうと思つた。
「妾《わたくし》もさう思つてゐますの。何時までも、お父様のお傍《そば》にゐたいと思つてゐますの。」
 さう云つ
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