暗い翳が、明らさまに火を放つて、爆発を来したらしいのである。
「一体|何《ど》うしたのでございます。そんなにお腹立ち遊ばして。」
瑠璃子は、父の顔を見上げながら、オヅ/\訊いた。父は口にするさへ、忌々《いま/\》しさうに、
「訊くな。訊くな。汚らはしい。俺《わし》達を侮辱してゐる。俺《わし》ばかりではない、お前までも侮辱してゐるのだ。」と、歯噛《はがみ》をしないばかりに激昂してゐるのだつた。
自分までもと、云はれると、瑠璃子は更に不安になつた。自分のことを、一体|何《ど》う云つたのだらう。自分に就いて、一体何を云つたのだらう。恋人の父は、自分のことを、一体|何《ど》う侮辱したのだらう。さう考へて来ると、瑠璃子は父の機嫌を恐れながらも、黙つてゐる訳には行かなかつた。
「一体どんなお話が、ございましたの。妾《わたくし》の事を、杉野さんは何《ど》う仰《おつ》しやるのでございますか。」
「訊くな。訊くな。訊かぬ方がいゝ。聞くと却つて気を悪くするから。あんな賤しい人間の云ふことは、一切耳に入れぬことぢや。」
やゝ興奮の去りかけた父は、却つて娘を宥《なだ》めるやうに優しく云ひながら、二階の居
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