てゐる苦悶、さうしたものが美奈子に、ヒシ/\と感ぜられた、自分をこれほど迄、愛して呉れる母には、自分も凡てを犠牲にしてもいゝと思つた。
「お母様! もう何も、仰しやつて下さいますな、妾《わたし》、青木さんのことなんか、ほんたうに何でもないのでございます。」
美奈子は、白い頬を夜目にも、分るほど真赤にしながら、恥かしげにさう云つた。
「いゝえ! 何でもないことはありません。処女の初恋は、もう二度とは得がたい宝玉です。初恋を破られた処女は、人生の半《なかば》を蹂み潰されたのです。美奈さん、妾《わたし》にはその覚えがあります。その覚えがあります。」
さう云つたかと思ふと、あれほど気丈な凜々しい瑠璃子も、顔に袖を掩うたまゝ、しばらく咽《むせ》び入つてしまつた。
「妾《わたし》には、その覚えがありますから、貴女のお心が分るのです。身に比べてしみ[#「しみ」に傍点]/″\と分るのです。」
母にさう云はれると、今まで抑へてゐた美奈子の悲しみは、堤を切られた水のやうに、彼女の身体を浸した。彼女の烈しいすゝり泣きが、瑠璃子の低いそれ[#「それ」に傍点]を圧してしまつた。
瑠璃子までが、昔の彼女に帰つたやうに、二人はいつまでも/\泣いてゐた。
が、先に涙を拭つたのは、美奈子だつた。
「お母様! 貴女は、決して妾《わたくし》にお詫をなさるには、当りませんわ。本当に悪いのは、お母様ではありません。妾《わたくし》の父です。お母様の初恋を蹂躙した父の罪が、妾《わたくし》に報いて来たのです。父の犯した罪が子の妾《わたくし》に報いて来たのです。お母様の故《せゐ》では決してありませんわ。」さう云ひながら、美奈子はしく/\と泣きつゞけてゐたが、「が、妾《わたくし》今晩、お母様の妾《わたくし》に対するお心を知つてつくづく思つたのです。お母様さへ、それほど妾《わたくし》を愛して下されば、世の中の凡ての人を失つても妾《わたくし》は淋しくありませんわ。」
さう云ひながら、美奈子は母に対する本当の愛で燃えながら、母の傍にすり寄つた。瑠璃子は、彼女の柔かいふつくりとした撫肩を、白い手で抱きながら云つた。
「本当にさう思つて下さるの。美奈さん! 妾《わたし》もさうなのよ。美奈さんさへ、妾《わたし》を愛して下されば、世の中の凡ての人を敵にしても、妾《わたし》は寂しくないのです。」
二人は浄い愛の火に焼か
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