あつた。箱根の山の大自然の中に、茲《こゝ》ばかり一寸人間が細工をしたと云つたやうな、こましやくれ[#「こましやくれ」に傍点]た、しかし、厭味のない小公園だつた。
 園の中央には、山上から引いたらしい水が、噴水となつて迸つて、肌寒いほどの涼味を放つてゐた。
 三人は、黙つたまゝ園内を、彼方此方《あちらこちら》と歩いた。誰も口を利かなかつた。皆が、舌を封ぜられたかのやうに、黙々としてたゞ歩き廻つてゐた。
 三人が、少し歩き疲れて、片陰の大きい楢の樹の下の自然石の上に、腰を降した時だつた。先刻から一言も、口を利かなかつた瑠璃子が、突然青年に向つて話し出した。しかも可なり真剣な声で。
「青木さん! 此間のお話ね。」
 青年は、瑠璃子が何を云つてゐるのか、丸切《まるき》り見当が付かないらしかつた。
「えつ! えつ!」彼は可なり狼狽したやうに焦つてゐた。
「此間のお話ね。」
 瑠璃子は、再びさう繰り返した。彼女の言葉には、鋼鉄のやうな冷たさと堅さがあつた。
「此間の話?」
 青年は、如何にも腑に落ちないと云つたやうに、首を傾げた。
 丁度その時、美奈子は母と青年との真中に坐つてゐた。自分を、中央にして、自分を隔てゝ母と青年とが、何だかわだかまりのある話をし始めたので、彼女は可なり当惑した。が、彼女にも母が、一体何を話し出すのか皆目見当が付かなかつた。
「お忘れになつたの。先夜のお話ですよ。」
 瑠璃子の声は、冗談などを少しも意味してゐないやうな真面目だつた。
「先夜つて、何時のことです。」青年の声が、だん/\緊張した。
「お忘れになつたの? 一昨日《をとゝひ》の晩のことですよ。」
 青年が色を変へて駭いたことが、美奈子にもハツキリと感ぜられた。美奈子でさへ、あまりの駭きのために、胸が潰れてしまつた。母は、果して一昨日の夜のことを、美奈子の前で話さうとしてゐるのかしら、さう思つた丈《だけ》で、美奈子の心は戦《をのゝ》いた。
「一昨日の晩!」青年の声は、必死であつた。彼は一生懸命の努力で続けて云つた。
「一昨日の晩? 何か特別に貴女《あなた》とお話をしたでせうか。」
 必死に、逃路《にげみち》を求めてゐるやうな青年の様子が、可なり悲惨だつた。美奈子は、他人事ならず、胸が張り裂けるばかりに、母が何と云ひ出すかと待つてゐた。
「お忘れになつたの。」
 瑠璃子は、静《しづか》に冷たく云つ
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