も/\当《あて》がつた。
「あゝこりやいけない!」
 彼は再び絶望したやうな声を出した。
「いけませんでございませうか。」
 さう訊いた瑠璃子の声にも、深い憂慮《うれひ》が含まれてゐた。
「こりやいけない! 心臓麻痺らしいです。何時か診察したときにも、よく御注意して置いた筈ですが、可なり酷い脂肪心だから、よく御注意なさらないと、直ぐ心臓麻痺を起し易いと、幾度も云つた筈ですが。喧嘩だとか格闘だとか、興奮するやうなことは、一切してはならないと、注意して置いたのですがね。」
 医師は、いかにも、自分の与へた注意が守られなかつたのが、遺憾に堪へないやうに、耳は聴診器に当《あて》がひながら、幾度も繰り返した。
「心臓の周囲に、脂肪が溜ると、非常に心臓が弱くなつてしまふのです。火事の時などに、駈け出した丈《だけ》で、倒れてしまふ人があるのです。それに酒を召し上つてゐたのですね。酒を飲んでゐる上に、烈しい格闘をやつちや堪りません。お子さんとなら、また何だつて早くお止めにならなかつたのです。」
 さう云はれると、瑠璃子の良心は、グイと何かで突き刺されるやうに感じた。
「もう駄目だとは思ひますが、諦めのために、カンフル注射をやつて見ませう。」
 医師は、手早くその用意をしてしまふと、今肉体を去らうとして、たゆたうてゐる魂を、呼び返すために、巧みに注射針を操つて、一筒のカンフルを体内に注いだ。
 医師は、注射の反応を待ちながらも、二三度人工呼吸を試みた。が、勝平の身体は、刻一刻、人間特有の温みと生気とを失ひつゝあつた。その巨きい顔に、死相がアリ/\と刻まれてゐた。
「お気の毒ですが、もう何とも仕方がありません。」
 医師は、死に対する人間の無力を現すやうに、悄然と最後の宣告を下した。

        八

 戦は終つた。不意に突然に意外に、敵は今彼女の眼前に、何の力もなく何の意地もなく土塊の如くに横はつてゐる。
 彼女は見事に勝つた。勝つたのに違ひなかつた。傲岸な、金の力に依つて、人間の道を蔑《なみ》しようとした相手は倒れてゐる。さうだ! 勝利は明かだ。
 が、勝平の死顔をぢつと見詰めてゐる時に、彼女の心に湧いて来たものは、勝の欣びではなくしてむしろ勝の悲しみだつた。勝利の悲哀だつた。確《たしか》に勝つてゐる。が、勝平の肉体に勝つた如く、彼の精神にも勝ち得ただらうか。勝平は、その瀕死
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