だ。あはゝゝゝゝ。」
勝平は、嫉妬と憤怒とを心の底へと、押し込みながら、何気ないやうに笑つた。
「何うも、有難う。やつと、お許しが出ましたのね。」瑠璃子も、サラリと何事もなかつたやうに微笑した。
その時に、勝平は急に思ひ付いたやうに云つた。
「さう/\。貴女《あなた》に話すのを忘れてゐた。此間中頭が重いので、一昨日《をとゝひ》、近藤に診て貰ふと、神経衰弱の気味らしいと云ふのだ。海岸へでも行つて、少し静養したら何うだと云ふのだがね、さう云はれると、俺も此の七月以来会社の創立や何かで、毎日のやうに飛び廻つてゐたものだからね、精力主義の俺《わし》も可なりグダ/\になつてゐるのだ。神経衰弱だなんて、大したこともあるまいと思ふが、まあ暫らく葉山へでも行つて、一月ばかり遊んで来ようかと思ふのだ。尤も、彼処からぢや、毎日東京に通つても訳はないからね。それに就いては、是非貴女に一緒に行つていたゞきたいと思ふのだがね。」勝平は、熱心に、退引ならないやうに瑠璃子に云つた。
「葉山へ!」と云つたまゝ、遉《さすが》に彼女は二の句を云ひ淀んだ。
「さうです! 葉山です。彼処に、林子爵が持つてゐた別荘を、此春譲つて貰つたのだが、此夏美奈子が避暑に行つた丈《だけ》で、俺《わし》はまだ二三度しか宿《とま》つてゐないのだ。秋の方が、静《しづか》でよいさうだから、ゆつくり滞在したいと思ふのだが。」
勝平は、落着いた口調で言つた。葉山へ行くことは、何の意味もないやうに云つた。が、瑠璃子には、その言葉の奥に潜んでゐる勝平のよからぬ意志を、明かに読み取ることが出来た。葉山で二人|丈《だけ》になる。それが何う云ふ結果になるかは瑠璃子には可なりハツキリ分るやうに思つた。が、彼女はさうした危機を、未然に避くることを、潔しとしなかつた。どんな危機に陥つても、自分自身を立派に守つて見せる。彼女には、女ながらさうした烈しい最初の意気が、ピクリとも揺いでゐなかつた。
「結構でございますわ、妾《わたくし》も、そんな所で静かな生活を送るのが大好きでございますのよ。」
彼女は、その清麗な面に、少しの曇も見せないで、爽かに答へた。
「あゝ行つて呉れるのか。それは有難い。」
勝平は、心から嬉しさうにさう云つた。葉山へさへ、伴つて行けば、当分勝彦と引き離すことが出来る上に、其処では召使を除いた外は、瑠璃子と二人切りの生活で
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