何だか定《きま》りが付かなくつて困りますのよ。表面《うはべ》丈《だけ》でもいゝからいゝとか何とか合槌を打つて下さる方が欲しいのよ。」
「それなら、美奈子と一緒に行らつしやい。」
 勝平は、怒つた牡牛のやうにプリ/\しながら、それでも正面から瑠璃子をたしなめ[#「たしなめ」に傍点]ることが出来なかつた。
「美奈子さん。だつて、美奈子さんは、三時過ぎでなければ学校から、帰つて来ないのですもの。それから支度をしてゐては、遅くなつてしまひますわ。」
 瑠璃子は、大きい駄々つ子のやうな表情を見せながら、その癖顔|丈《だけ》は、微笑を絶たなかつた。勝平は又黙つてしまつた。瑠璃子は追撃するやうに云つた。
「何うして勝彦さんに一緒に行つていたゞいては、いけませんの。」
 勝平の顔色は、咄嗟に変つた。その顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》の筋肉が、ピク/\動いたかと思ふと、彼は顫へる手で箸を降しながら、それでも声|丈《だ》けは、平静な声を出さうと努めたらしかつたが、変に上ずツてしまつてゐた。
「勝彦! 勝彦勝彦と、貴女《あなた》はよく口にするが、貴女は勝彦を一体何だと思つてゐるのです。もう、一月以上此家にゐるのだから、気が付いたでせう。親の身として、口にするさへ恥かしいが、あれは白痴ですよ。白痴も白痴も、御覧の通《とほり》東西も弁じない白痴ですよ。あゝ云ふ者を三越に連れて行く。それは此の荘田の恥、荘田一家の恥を、世間へ広告して歩くやうなものですよ。貴女も、動機は兎も角、一旦此の家の人となつた以上、かう云ふ馬鹿息子があると云ふことを、広告して下さらなくつてもいゝぢやありませんか。」
 勝平は、結婚して以来、初めて荒々しい言葉を、瑠璃子に対して吐いた。が、象牙の箸を飯椀の中に止めたまゝ、ぢつと聴いてゐた瑠璃子は、眉一つさへ動かさなかつた。勝平の言葉が終ると、彼女は駭いたやうに、眼を丸くしながら、
「まあ! あんなことを。そんな邪推してゐらつしやるの。妾《わたくし》勝彦さんを馬鹿だとか白痴だとか賤しめたことは、一度もありませんわ。あんな無邪気な純な方はありませんわ。それは、少し足りないことは足りないわ。それは、お父様の前でも申し上げねばなりません。でも、あんなに正直な方に、妾《わたくし》初めてお目にかゝりましたのよ。それに妾《わたくし》の云つたことなら、何でもして下さる
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