の筋肉が、ピク/\と痙攣する丈で、言葉は少しも、出て来なかつた。
「何《ど》う云ふ御用です。承らうぢやありませんか。何う云ふ御用です。」
 荘田はのしかゝるやうに畳かけて訊いた。直也は、心の裡に沸騰する怒りを、何う現してよいか、分らないやうに、暫らくは両手を顫はせながら、荘田の顔を睨んで立つてゐたが、突如として口を切つた。
「貴君《あなた》は、良心を持つてゐますか。」
「良心を!」と、荘田は直ぐ受けたが、問が余りに唐突であつたため暫らくは語《ことば》に窮した。
「さうです。良心です。普通の人間には、そんなことを訊く必要はない。が、人間以下の人間には、訊く必要があるのです。貴君は良心を持つてゐますか。」
 直也は、卓を叩かんばかりに、烈しく迫つた。
「あはゝゝゝゝ。良心! うむ、そんな物はよく貧乏人が持ち合はしてゐるものだ。そして、それを金持に売り付けたがる。はゝゝゝ、私も度々買はされた覚えがある。が、私自身には生憎良心の持ち合せがない、はゝゝゝ。いつかも、貴君に云つた通り、金さへあれば、良心なんかなくても、結構世の中が渡つて行けますよ。良心は、羅針盤のやうなものだ。ちつぽけな帆前や、たかが五百|噸《トン》や千|噸《トン》の船には、羅針盤が必要だ。が、三万とか四万とか云ふ大軍艦になると、羅針盤も何も入りやしない、大手を振つて大海が横行出来る。はゝゝゝ。俺なども、羅針盤の入らない軍艦のやうなものぢや。はゝゝゝ。」
 荘田は、飽くまでも、自分の優越を信じてゐるやうに、出来る丈《だけ》直也を、じらす[#「じらす」に傍点]やうに、ゆつくりと答へた。
 それを聴くと、直也は堪らないやうに、わなわなと身体を顫はせた。
「貴君は、自分がやつたことを恥だとは思はないのですか。卑劣な盗人でも恥ぢるやうな手段を廻らして、唐沢家を迫害し、不倫な結婚を遂げようと云ふやうな、浅ましいやり方を、恥づかしいとは思はないのですか。貴君は、それを恥づる丈の良心を持つてゐないのですか。」
 直也は、吃々とどもりながら、威丈高に罵つた。が、荘田はビクともしなかつた。
「お黙りなさい。国家が許してある範囲で、正々堂々と行動してゐるのですよ。何を恥ぢる必要があるのです。貴方は、白昼公然と、私の金の力を、あざ嗤つた。が、御覧なさい! 貴君は、金の力で自分のお父様を買収され、あなたの恋人を、公然と奪はれてしまつた
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