に、こうまでへこたれてしまわなくってもいいと思う。彼は、成経がもう一度溜息をついたら、それを機会に、たしなめてやろうと思いながら、じっと成経の顔を見据えていたが、成経はそれと悟ったわけでもあるまいが、くるりと俊寛の方へ背を向けると、海の方へ向いたまま、これもしばし、まどろむつもりだろう、黙り込んでしまった。
二人の友達が黙ってしまうと、俊寛の心も張合いが抜けたように、淡い悲しみに囚われる。彼にも、島の生活がたまらなく苦痛になってきた。都へ帰りたい。そうした渇きに似た感情で、胸を責められるその上、成経、康頼らの心持と、自分の心持とが日に増しこじれてくることを感じた。人間が、三人集まるときは、きっとその中の二人だけが仲よくなり、一人だけは孤立する傾きのあるものだが、今の場合には、それがことに激しかった。康頼も、成経も、彼らの生存が苦しくなればなるほど、愚痴になってくる。そして、過ぎ去った謀反《むほん》の企てを心のうちで後悔しはじめる。人間はいかなる場合でも、自分を怨《うら》まないで、他人を怨む。そして、陰謀の発頭人であった西光《さいこう》を怨む。ひいては西光といちばん親しかった俊寛を怨む
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