しも動かない。彼らは苦痛が重なれば重るほど、しょげきってしまい、飯を食うほかは、天気のよい日は海浜《かいひん》の砂地で、雨の降る日は仕方なくその狭い小屋の中で、ただ溜息と愚痴とのうちに、一日一日を過していた。そのうちに三人とも激しい不眠症に襲われた。その中でも、神経質の康頼がいちばんひどかった。彼は、夜中眠られない癖がついてしまったので、昼間よく仮寝《うたたね》をする。さっきからも、横になったかと思うと、もうかすか[#「かすか」に傍点]ないびきを立てている。長い間、剃刀《かみそり》を当てない髯《ひげ》がぼうぼうとしてその痩せこけた頬を掩《おお》うている。その上、褪《あ》せた唇の下端《した》には、涎《よだれ》が今にも落ちそうに湛《たた》えている。
成経は成経で、妖怪《もののけ》に憑《つ》かれたような、きょとんとした目付きで、晴れた大空を、あてどもなく見ながら、溜息ばかりついている。俊寛は、一緒に陰謀を企てた連中の、こうした辛抱のない、腑甲斐のない様子を見ていると、自分自身までが情なくなる。陰謀を企てた人間として、いますこしは男らしい、毅然《きぜん》としたところがあってもいい。刑罰のもと
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