った。が、午後からは海岸へ出て、毎日のように鰤《ぶり》を釣った。糸は太い蔓《つる》を用い、針は獣の骨で作った。三、四尺の大魚は、針を入れると同時に、無造作に食いつく。それを引き上げるのが、どんなに壮快であっただろう。それは、魚と人間との格闘であった。俊寛は危うく海の中へ、引きずり込まれそうになる。それを、岩角へ足をふんばって、ぐっと持ち堪《こた》える。魚はそのかかった針をはずそうとして、波間で白い腹をかえしながら身を悶《もだ》える。そうした格闘が、半刻近くも続く。そのうちに、魚の力が弱ってくる。それでもなお、身体を激しく捻《ね》じ曲げながら、水面に引き上げられる。
 この豪快な鰤約が、この頃の俊寛にとっては、仕事でもあり、娯楽でもあった。四尺を越す大魚を三、四匹繋いで、砂の上を小屋まで引きずって帰るのは苦しい仕事であった。が、それを炙《あぶ》ると、新鮮な肉からは、香ばしい匂いが立ち、俊寛の健啖《けんたん》な食欲をいやが上にも刺激する。
 彼は、毎日のように、近所の海角《うみかど》に出て、鰤を釣った。彼は、その魚から油を取って、灯火《ともし》の油にしようと考えたのである。
 鰤は、群を成 
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