ろう。十分昇り切った朝の太陽のもとに、紺碧《こんぺき》の潮が後から後から湧くように躍っていた。海に接している砂浜は金色《こんじき》に輝き、飛び交うている信天翁《あほうどり》の翼から銀の光を発するかと疑われ、いつもは見ることを厭っていた硫黄ヶ岳に立つ煙さえ、今朝は澄み渡った朝空に、琥珀色《こはくいろ》に優にやさしくたなびいている。
俊寛は、童《わらべ》のようなのびやかな心になりながら、両手を差し広げ、童のように叫びながら自分の小屋へ駆け戻った。
三
島に来て以来一年の間、俊寛の生活は、成経や康頼との昔物語から、謀反の話をして、おしまいにはお互いの境遇を嘆き合うか、でなければ、砂丘の上などに登りながら、波路《なみじ》遥かな都を偲《しの》んで溜息をつきながら、一日を茫然と過ごしてしまうのであったが、俊寛はそうした生活を根本から改めようと決心した。
彼は、つとめて都のことを考えまいとした。従って、成経や康頼のことを考えまいとした。彼は、成経や康頼が親切に残して置いてくれた狩衣《かりぎぬ》や刺貫《さしつら》を、海中へ取り捨てた。長い生活の間には、衣類に困るのは分かり
前へ
次へ
全40ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング