を忘《わす》れるくらいです。それは、さっきの鳥《とり》の名《な》も知《し》らなければ、どこへ飛《と》んで行《い》ったのかも知《し》りませんでしたけれど、生《うま》れてから今《いま》までに会《あ》ったどの鳥《とり》に対《たい》しても感《かん》じた事《こと》のない気持《きもち》を感《かん》じさせられたのでした。子家鴨《こあひる》はあのきれいな鳥達《とりたち》を嫉《ねた》ましく思《おも》ったのではありませんでしたけれども、自分《じぶん》もあんなに可愛《かわい》らしかったらなあとは、しきりに考《かんが》えました。可哀《かわい》そうにこの子家鴨《こあひる》だって、もとの家鴨達《あひるたち》が少《すこ》し元気《げんき》をつける様《よう》にしてさえくれれば、どんなに喜《よろこ》んでみんなと一緒《いっしょ》に暮《くら》したでしょうに!
 さて、寒《さむ》さは日々《ひび》にひどくなって来《き》ました。子家鴨《こあひる》は水《みず》が凍《こお》ってしまわない様《よう》にと、しょっちゅう、その上《うえ》を泳《およ》ぎ廻《まわ》っていなければなりませんでした。けれども夜毎々々《よごとよごと》に、それが泳《およ
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