じっとその子《こ》を見《み》つめていましたが、突然《とつぜん》、
「まあこの子《こ》の大《おお》きい事《こと》! そしてほかの子《こ》とちっとも似《に》てないじゃないか! こりゃあ、ひょっとすると七面鳥《しちめんちょう》かも知《し》れないよ。でも、水《みず》に入《い》れる段《だん》になりゃ、すぐ見分《みわ》けがつくから構《かま》やしない。」
と、独言《ひとりごと》を言《い》いました。
翌《あく》る日《ひ》もいいお天気《てんき》で、お日様《ひさま》が青《あお》い牛蒡《ごぼう》の葉《は》にきらきら射《さ》してきました。そこで母鳥《ははどり》は子供達《こどもたち》をぞろぞろ水際《みずぎわ》に連《つ》れて来《き》て、ポシャンと跳《と》び込《こ》みました。そして[#「そして」は底本では「そしそ」]、グワッ、グワッと鳴《な》いてみせました。すると小《ちい》さい者達《ものたち》も真似《まね》して次々《つぎつぎ》に跳《と》び込《こ》むのでした。みんないったん水《みず》の中《なか》に頭《あたま》がかくれましたが、見《み》る間《ま》にまた出《で》て来《き》ます。そしていかにも易々《やすやす》と脚《あし》の下《した》に水《みず》を掻《か》き分《わ》けて、見事《みごと》に泳《およ》ぎ廻《まわ》るのでした。そしてあのぶきりょうな子家鴨《こあひる》もみんなと一緒《いっしょ》に水《みず》に入り、一緒《いっしょ》に泳《およ》いでいました。
「ああ、やっぱり七面鳥《しちめんちょう》じゃなかったんだ。」
と、母親《ははおや》は言《い》いました。
「まあ何《なん》て上手《じょうず》に脚《あし》を使《つか》う事《こと》ったら! それにからだもちゃんと真《ま》っ直《す》ぐに立《た》ててるしさ。ありゃ間違《まちが》いなしに私《あたし》の子《こ》さ。よく見《み》りゃ、あれだってまんざら、そう見《み》っともなくないんだ。グワッ、グワッ、さあみんな私《わたし》に従《つ》いてお出《い》で。これから偉《えら》い方々《かたがた》のお仲間《なかま》入《い》りをさせなくちゃ。だからお百姓《ひゃくしょう》さんの裏庭《にわ》の方々《かたがた》に紹介《しょうかい》するからね。でもよく気《き》をつけて私《わたし》の傍《そば》を離《はな》れちゃいけないよ。踏《ふ》まれるから。それに何《なに》より第一《だいいち》に猫《ねこ》を用心《よ
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