った白鳥《はくちょう》が[#「白鳥が」は底本では「白鳥か」]いまーす、新《あたら》しいのが来《き》たんでーす。」
口々《くちぐち》にそんな事《こと》を叫《さけ》んで。それからみんなもっとたくさんのパンやお菓子《かし》を貰《もら》って来《き》て、水《みず》に投《な》げ入《い》れました。そして、
「新《あたら》しいのが一等《いっとう》きれいだね、若《わか》くてほんとにいいね。」
と、賞《ほ》めそやすのでした。それで年《とし》の大《おお》きい白鳥達《はくちょうたち》まで、この新《あたら》しい仲間《なかま》の前《まえ》でお辞儀《じぎ》をしました。若《わか》い白鳥《はくちょう》はもうまったく気《き》まりが悪《わる》くなって、翼《つばさ》の下《した》に頭《あたま》を隠《かく》してしまいました。彼《かれ》には一体《いったい》どうしていいのか分《わか》らなかったのです。ただ、こう幸福《こうふく》な気持《きもち》でいっぱいで、けれども、高慢《こうまん》な心《こころ》などは塵《ちり》ほども起《おこ》しませんでした。
 見《み》っともないという理由《りゆう》で馬鹿《ばか》にされた彼《かれ》、それが今《いま》はどの鳥《とり》よりも美《うつく》しいと云《い》われているのではありませんか。接骨木《にわどこ》までが、その枝《えだ》をこの新《あたら》しい白鳥《はくちょう》の方《ほう》に垂《た》らし、頭《あたま》の上《うえ》ではお日様《ひさま》が輝《かがや》かしく照《て》りわたっています。新《あたら》しい白鳥《はくちょう》は羽《はね》をさらさら鳴《な》らし、細《ほ》っそりした頸《くび》を曲《ま》げて、心《こころ》の底《そこ》から、
「ああ僕《ぼく》はあの見《み》っともない家鴨《あひる》だった時《とき》、実際《じっさい》こんな仕合《しあわ》せなんか夢《ゆめ》にも思《おも》わなかったなあ。」
と、叫《さけ》ぶのでした。



底本:「小學生全集第五卷 アンデルゼン童話集」興文社、文藝春秋社
   1928(昭和3)年8月1日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、次の書き換えを行いました。
「或→ある 余り→あまり 一向→いっこう 一旦→いったん 中→うち 彼→か 却って→かえって かも知れない→かもしれない 位→くらい
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