《かしこ》いここの猫《ねこ》さんにでも、女御主人《おんなごしゅじん》にでも訊《き》いてごらんよ、水《みず》の中《なか》を泳《およ》いだり、頭《あたま》の上《うえ》を水《みず》が通《とお》るのがいい気持《きもち》だなんておっしゃるかどうか。」
牝鶏《めんどり》は躍気《やっき》になってそう言《い》うのでした。子家鴨《こあひる》は、
「あなたにゃ僕《ぼく》の気持《きもち》が分《わか》らないんだ。」
と、答えました。
「分《わか》らないだって? まあ、そんなばかげた事《こと》は考《かんが》えない方《ほう》がいいよ。お前《まえ》さんここに居《い》れば、温《あたた》かい部屋《へや》はあるし、私達《わたしたち》からはいろんな事《こと》がならえるというもの。私《わたし》はお前《まえ》さんのためを思《おも》ってそう言《い》って上《あ》げるんだがね。とにかく、まあ出来《でき》るだけ速《はや》く卵《たまご》を生《う》む事《こと》や、喉《のど》を鳴《なら》す事《こと》を覚《おぼ》える様《よう》におし。」
「いや、僕《ぼく》はもうどうしてもまた外《そと》の世界《せかい》に出《で》なくちゃいられない。」
「そんなら勝手《かって》にするがいいよ。」
そこで子家鴨《こあひる》は小屋《こや》を出《で》て行《い》きました。そしてまもなく、泳《およ》いだり、潜《くぐ》ったり出来《でき》る様《よう》な水《みず》の辺《あた》りに来《き》ましたが、その醜《みにく》い顔容《かおかたち》のために相変《あいか》らず、他《ほか》の者達《ものたち》から邪魔《じゃま》にされ、はねつけられてしまいました。そのうち秋《あき》が来《き》て、森《もり》の木《き》の葉《は》はオレンジ色《いろ》や黄金色《おうごんいろ》に変《かわ》って来《き》ました。そして、だんだん冬《ふゆ》が近《ちか》づいて、それが散《ち》ると、寒《さむ》い風《かぜ》がその落葉《おちば》をつかまえて冷《つめた》い空中《くうちゅう》に捲《ま》き上《あ》げるのでした。霰《あられ》や雪《ゆき》をもよおす雲《くも》は空《そら》に低《ひく》くかかり、大烏《おおがらす》は羊歯《しだ》の上《うえ》に立《た》って、
「カオカオ。」
と、鳴《な》いています。それは、一目《ひとめ》見《み》るだけで寒《さむ》さに震《ふる》え上《あが》ってしまいそうな様子《ようす》でした。目《め》に
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