おんな》と、一|匹《ぴき》の牡猫《おねこ》と、一|羽《わ》の牝鶏《めんどり》とが住《す》んでいるのでした。猫《ねこ》はこの女御主人《おんなごしゅじん》から、
「忰《せがれ》や。」
と、呼《よ》ばれ、大《だい》の御《ご》ひいき者《もの》でした。それは背中《せなか》をぐいと高《たか》くしたり、喉《のど》をごろごろ鳴《な》らしたり逆《ぎゃく》に撫《な》でられると毛《け》から火《ひ》の子《こ》を出《だ》す事《こと》まで出来《でき》ました。牝鶏《めんどり》はというと、足《あし》がばかに短《みじか》いので
「ちんちくりん。」
と、いう綽名《あだな》を貰《もら》っていましたが、いい卵《たまご》を生《う》むので、これも女御主人《おんなごしゅじん》から娘《むすめ》の様《よう》に可愛《かわい》がられているのでした。
さて朝《あさ》になって、ゆうべ入《はい》って来《き》た妙《みょう》な訪問者《ほうもんしゃ》はすぐ猫達《ねこたち》に見《み》つけられてしまいました。猫《ねこ》はごろごろ喉《のど》を鳴《な》らし、牝鶏《めんどり》はクックッ鳴《な》きたてはじめました。
「何《なん》だねえ、その騒《さわ》ぎは。」
と、お婆《ばあ》さんは部屋中《へやじゅう》見廻《みまわ》して言《い》いましたが、目《め》がぼんやりしているものですから、子家鴨《こあひる》に気《き》がついた時《とき》、それを、どこかの家《うち》から迷《まよ》って来《き》た、よくふとった家鴨《あひる》だと思《おも》ってしまいました。
「いいものが来《き》たぞ。」
と、お婆《ばあ》さんは云《い》いました。
「牡家鴨《おあひる》でさえなけりゃいいんだがねえ、そうすりゃ家鴨《あひる》の卵《たまご》が手《て》に入《はい》るというもんだ。まあ様子《ようす》を見《み》ててやろう。」
そこで子家鴨《こあひる》は試《ため》しに三|週間《しゅうかん》ばかりそこに住《す》む事《こと》を許《ゆる》されましたが、卵《たまご》なんか一《ひと》つだって、生《うま》れる訳《わけ》はありませんでした。
この家《うち》では猫《ねこ》が主人《しゅじん》の様《よう》にふるまい、牝鶏《めんどり》が主人《しゅじん》の様《よう》に威張《いば》っています。そして何《なに》かというと
「我々《われわれ》この世界《せかい》。」
と、言《い》うのでした。それは自分達《じぶんたち》が世
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