小田原陣
菊池寛

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)総《すべ》て

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)千成|瓢箪《びょうたん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#天から3字下げ]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)とんとろ/\
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       関東の北条

 天正十五年七月、九州遠征から帰って来た秀吉にとって、日本国中その勢いの及ばないのは唯関東の北条氏あるだけだ。尤も奥羽地方にも其の経略の手は延びないけれど、北条氏の向背が一度決すれば、他は問題ではない。箱根山を千成|瓢箪《びょうたん》の馬印が越せば、総《すべ》て解決されるのである。
 聚楽第《じゅらくだい》行幸で、天下の群雄を膝下《しっか》に叩頭《こうとう》させて気をよくして居た時でも、秀吉の頭を去らなかったのは此の関東経営であろう。だから、此のお目出度が終ると直ぐ、天正十六年五月に北条氏に向って入朝を促して居る。
 一体関東に於ける北条氏の地位は、伊勢新九郎(早雲)以来、氏綱、氏康、氏政と連綿たる大老舗《おお
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