させろ」というが、それと同じく、小説を書くには、若い時代の苦労が第一なのだ。金のある人などは、真に生活の苦労を知ることは出来ないかも知れないが、とにかく、若い人は、つぶさに人生の辛酸を嘗《な》めることが大切である。
作品の背後に、生活というものの苦労があるとないとでは、人生味といったものが、何といっても稀薄だ。だから、その人が、過去において、生活したということは、その作家として立つ第一の要素であると思う。そういう意味からも、本当に作家となる人は、くだらない短篇なんか書かずに、専《もっぱ》ら生活に没頭して、将来、作家として立つための材料を、蒐集すべきである。
かくの如く、生活して行き、而して、人間として、生きて行くということ、それが、すなわち、小説を書くための修業として第一だと思う。
[#地付き](一九二三年十二月)
底本:「半自叙伝」講談社学術文庫、講談社
1987(昭和62)年7月10日第1刷発行
入力:大野晋
校正:noriko saito
2005年1月6日作成
青空文庫作成ファイル:
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