。」
父にいわれると、セエラは大変気高く、物優しい眼になって、話し出しました。
「エミリイちゃんは、まだ買ってないけど、お父様が私に買って下さるはずのお人形ですの。お父様がいらっしゃらなくなったら、私エミリイちゃんとお父様のことをいろいろお噂するつもり。」
「まア、何て御利発な――」
「ええ。」と父はセエラをひきよせて、「この子はまったく可愛い子です。どうか私に代って、よく面倒をみてやって下さい。」とミス・ミンチンにいいました。
それから五六日、セエラは父とホテルに滞在しました。二人は毎日町へ出ては、夥《おびただ》しい買物をしました。高価な毛皮で縁どった天鵞絨《びろうど》の服や、レエスの着物や、刺繍のある衣服や、駝鳥《だちょう》の羽根で飾った帽子――貂《てん》の皮の外套《がいとう》、それから小さな手袋、手巾《ハンケチ》、絹の靴下――帳場の後方《うしろ》に坐っていた婦人達は、あまり贅沢な買物をするので、セエラはどこかの姫宮《プリンセス》じゃアないかと囁《ささや》き合ったくらいでした。
「私は、あの子を生きているように見せたいの。でも、お人形ってものは、何だかいくらお話しても聞いてない
前へ
次へ
全250ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング