した。一月とたたぬうち、彼は、カアマイクル氏が予言したように、まったく別人のようになりました。紳士はいつも愉快そうで、気がひきたっているようでした。あんなに重荷にしていた財産も、今は持っていてよかったと思っていました。まだまだセエラのためにしてやることは、いくらでもあるのです。二人は戯談《じょうだん》に、紳士を魔法使だということにしていました。で、彼はすっかり魔法使になりすまして、何かセエラを吃驚《びっくり》させるようなことばかり考えていました。セエラはふと部屋の中に、美しい花が咲いているのを見つけたこともありました。と思うと、また枕の下から思いもつかなかったような小さな贈物が出て来ました。ある晩のこと、セエラが小父さんと坐っていると、ふと戸の外に、強い前脚で戸を掻くような音がしました。何かと思って、セエラが戸を開けてみますと、大きな犬――見事なロシアの猪狩犬《ボアハウンド》が立っていました。しかも、金銀で造った首輪には、次のような字が、浮き上っていました。
『我名はボリス。プリンセス・セエラの僕《しもべ》。』
印度紳士の一番好んだのは、襤褸を着た宮様《プリンセス》の思い出でした。大
前へ
次へ
全250ページ中240ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング