た。その上、上衣のポケットには、こんなことを書いた紙片《かみぎれ》が、ピンで留めてありました。
「平常《ふだん》にお着なさい。換える必要があったら、いつでも換えて上げます。」
それを見ると、ミンチン女史は卑しい心の中に、何か不思議なことがあるなとさとりました。あるいは自分は思いちがいをしていたのかもしれない。この孤児《みなしご》の背後《うしろ》には、誰か変りものの、しかし勢力のある友人があったのかもしれない。あるいは誰か今まで知られていなかった親戚があって、ふとセエラの居所をつきとめた上、こんな妙な方法で彼女の世話をしはじめたのかもしれない。親戚にはよく変人があるものです。殊に年とった、金持で独身《ひとりみ》の伯父などというものは、子供をそばに置くことをいやがって、遠くの方から、その子の様子を見守っていたりするものです。またそんな伯父はきまって癇癪持《かんしゃくもち》で、怒りっぽいものです。だから、もしそんな人がいて、セエラのひどい様子を見たら、いい気持のするはずはありません。ミンチン女史は、妙に不安な気持になりました。で、彼女はセエラを横目でちらと見て、セエラの父が亡くなって以来使
前へ
次へ
全250ページ中208ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング