たのよ。」
「私ちっともよみたかなかったわ。でも、読まないとパパに怒られるのよ。パパは、私がお休みに家《うち》に帰るまでに、すっかり憶えさせようってつもりなのよ。私どうしたらいいでしょう。」
「こうしたら、どう? 私がよんで、あとですっかりあなたに話してあげるわ。憶えやすいようにね。」
「あら、うれしい。でも、あなたにそんなこと出来るの?」
「出来ると思うわ。小さい人達は、私のお話をよく憶えてるじゃアないの。」
「もし、あなたが憶えやすいように私に話して下さるなら、私、何でもあなたに上げるわ。」
「私、あなたから何にもいただこうとは思わないけど、でも、この本は欲しいわ。」
「じゃアあげるわ。私は本なんか、好こうと思っても好きになれないのよ。私は利口じゃアないの。ところが、お父様は御自分が何でもお出来になるものだから、私だって出来ないはずはないと思ってらっしゃるのよ。」
「私に本を下すったりして、あとでお父様に何て仰しゃるつもり?」
「何ともいわないわ。私がお話を憶えていさえすれば、よんだのだと思うでしょう。」
「そんな嘘をいうものじゃアないわ。嘘は悪いばかりでなく、卑しいことよ。だから
前へ 次へ
全250ページ中179ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング