貨を使ったってかまわないのは知っていました。もう長いこと、泥濘《ぬかるみ》の中に落ちていたようですし、この人混の中で、落した人の判ろうはずもありません。
「でも私、パン屋のおかみさんに、何かお落しになりはしなかって? と訊いてみよう。」
 セエラは元気なくそう独言すると、歩道を横切り、濡れた足で入口の階段を登ろうとしました。その拍子に、セエラは何かをふと目に止め、思わず足を止めました。
 セエラの足を止めたのは、セエラよりも惨めな子供の姿でした。子供の姿は、まるで一塊《ひとかたまり》の襤褸《ぼろ》でした。赤い泥まみれな素足が、その襤褸の中から覗き出していました。恐ろしくこんがらがった髪の下から、大きな、ひもじそうな眼を見張っていました。セエラは一目で、この子が餓えているのを知りました。と、たちまちセエラは可哀そうでたまらなくなりました。
「この娘も、やっぱり人の子なのだわ。そして、この子は私よりもひもじいようだわ。」
 その子は、顔を上げてちょっとセエラを見つめると、身体をずらせて、セエラの通る隙をつくりました。その子は誰にでも道をゆずりつけていたのです。巡査にでも見付かったが最後「退
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