した。――「東印度水夫《ラスカア》だ。」と、セエラはすぐ思いました。――彼の胸もとには、一匹の小猿がまつわりついていました。さっき聞いた妙な音は、小猿の声だったのでした。
 セエラが男の方を見ると、男もセエラを見返しました。男の顔は悲しげで、故郷《ふるさと》恋しいというようでした。霧の多いロンドンでは、めったに太陽を見ることが出来ないので、男はきっと印度で見なれた太陽を見に上って来たのでしょう。セエラはまじまじと男を見て、それから屋根越にほほえみました。セエラは辛い日を送って来た間に、たとい知らぬ人からでも、ほほえみかけられるのはうれしいということを、身に沁《し》みて感じていたのでした。
 セエラの微笑《ほほえみ》は、男を喜ばしたに違いありません。彼は夕闇《ゆうやみ》のような顔をぱっと輝かして、白い歯並を見せて笑いました。
 猿は男が挨拶しようとした隙に、ふと男の手を離れて、屋根を飛びこえ、セエラの肩に足をかけて、部屋の中に飛びこんでしまいました。セエラは面白がって笑い出しました。が、すぐ猿を主人に――あのラスカアが主人なら、あのラスカアに――返してやらなければならないと思いました。が
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