うちょっとの間、ここにいてもいいでございましょう?」
「ベッキイなんかを、どうしてここに置くのです。」
「でも、あの娘だって贈物を見たいでしょうから。あの娘だって、私達と同じ小さい女の子なのですもの。」
「まア、セエラさん、ベッキイは下女ですよ。下女なんて――あなた方のようなお嬢さんとは身分が違います。」
 ミンチン女史は、今までに一度も、ベッキイをセエラ達と比べて考えてみた事はありませんでした。女史の考えに従えば、小使娘などというものは、石炭を運んだり、火をおこしたりする機械でしかなかったのでした。
「でも私、ベッキイだって、私と同じ女の子だと思います。今日は私のお誕生日ですから、私のお願いをかなえて、あの娘をよろこばしてやって下さいませんか。」
「じゃア、今日は特別に許してあげましょう。レベカ、お前セエラさんにお礼を仰しゃい。」
 この話の間、ベッキイは、部屋の片隅にしりごみしながら、前掛の縁《へり》をいじくっていましたが、ミンチン女史にそういわれますと、ひょこひょこ出てきてお辞儀をしました。彼女は思うようにお礼の言葉もいえませんのでした。
「ほんとに、どうも、お嬢様。もううれしくって、私はお人形が見たくてたまらなかったの。ありがとうございます。それから、先生、ありがとうございます。」
「あっちの隅に立ってお出で。」ミンチン先生は出口の方をさしていいました。
「あんまり皆さんのそばに寄っちゃアいけないよ。」
 ベッキイはにやにや笑いながらその隅へ退きました。どんな隅にでも居残ることを許されたのは、台所で胸をわくわくさせているより、どんなにいいかしれませんでした。ミンチン先生はやがて一ツ咳払いをして、そうしていいました。
「皆さんがたにちょっと申し上げておきたいことがあります。御存じの通り、セエラさんは今日十一歳になられました。」
「ひいきのセエラ嬢だ。」と、ラヴィニアがそっと囁きました。
「あなたがたの中にも、もう十一になられた方が五六人はあるでしょう。が、セエラさんのお誕生日は、それらの方々のお誕生日とは、少し意味が違います。というのは、セエラさんはもう少し大きくなると、非常な財産を相続なさるからです。その時が来たら、セエラさんは、世の中のためになるように、そのお金を使わなければならないと思います。」
「ダイヤモンド鉱山のことか。」とジェッシイは小声でいって、
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