ている上に、いい賭場が、開いているというと、五里十里もの遠方まで出かけて行くという有様で、賭博に身も心も、打ち込んでいったのです。天性の賭博好きというのでしょう。勝っても負けても、にこにこ笑いながら、勝負を争っていたそうです。それに豪家の主人だというので、どこの賭場でも『旦那旦那』と上席に座らされたそうですから、つい面白くって、家も田畑も、壺皿の中へ叩き捨ててしまったのでしょう。むろん時々は勝ったこともあるのでしょうが、根が素人ですから、長い間には負け込んで、田畑を一町売り二町売り、とうとう千石に近かった田地を、みんな無くしてしまったそうです。おしまいには、賭博の資本にもことを欠いて、祖母の櫛や笄《こうがい》まで持ち出すようになったそうです。しまいには、住んでいる祖先伝来の家屋敷まで、人手に渡すようになってしまったのです。
が、祖父のこうした狂態や、それに関した逸話などはたくさんききましたが、たいてい忘れてしまいました。私が、今もなお忘れられないのは、祖父の晩年についての話です。
祖父が、本当に目が覚めて、ふっつりと賭博を止めたのは、六十を越してからだということです。それまでは、財
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