やりたいのは山々じゃ。が、貧乏でどうにもしようがないんじゃ。わしを恨むなよ。恨むのなら、お前のお祖父さんを恨むがええ。御厩では一番の石《こく》持といわれた家がこんなになったのも、皆お祖父さんがしたのじゃ。お前のお祖父さんが勝負事で一文なしになってしもうたんじゃ』と、いうと、父はすべての弁解をしてしまったように、くるりと向うを向いて、蒲団を頭から被ってしまいました。
 私は、自分の家が御維新前までは、長く庄屋を勤めた旧家であったことは、誰からとなく、薄々きき知っていたのですが、その財産が、祖父によって、蕩尽されたということは、この時初めて、父からきいたのです。むろんその時は、父の話を聞くと、二の句が次げないで泣寝入りになってしまったのです。
 その後、私は成長するに従って、祖父の話を父と母からきかされました。祖父は、元来私の家へ他から養子に来た人なのですが、三十前後までは真面目一方であった人が、ふとしたことから、賭博の味をおぼえると、すっかりそれに溺れてしまって、何もかもうっちゃって、家を外にそれに浸りきってしまったのです。御厩の長五郎という賭博《ばくち》の親分の家に、夜昼なしに入り浸っ
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