《しゅうね》く父と母とにせびり立てました。とうとう、父も母もしつこい私を持てあましたのでしょう、泣いたり、怒ったりしている私を、捨てて置いて二人とも寝てしまいました。
 私は、修学旅行の仲間入りのできないことを、友達にも顔向けのできないほど、恥かしいことだと思い詰めていたものですから、一晩中でも泣き明かすような決心で、父の枕元で、いつまでもぐずぐず駄々をこねていました。
 父も母も、頭から蒲団を被っていましたものの、私の声が彼らの胸にひしひしと応《こた》えていたことはもちろんです。私が、一時間近くも、旅行にやってくれない恨みをくどくどといい続けた時でしょう。今まで寝入ったように黙っていた父が、急にむっくりと床の中で起き直ると、蒲団の中から顔を出して、私の方をじっと見ました。
 私は、あんまりいい過ぎたので、父の方があべこべに怒鳴り始めるのではないかと、内心びくびくものでいましたが、父の顔は怒っているというよりも、むしろ悲しんでいるといったような顔付でありました。涙さえ浮んでいるのではないかと思うような目付をしていました。
『やってやりたいのは山々じゃ。わしも、お前に人並のことは、させて
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