となのです。
私の家というのは、私が物心を覚えて以来、ずっと貧乏で、一町ばかりの田畑を小作して得るわずかな収入で、親子四人がかつかつ暮していたのです。
確か私が高等小学の一年の時だったでしょう。学校から、初めて二泊宿りの修学旅行に行くことになったのです。小学校時代に、修学旅行という言葉が、どんなに魅惑的な意味を持っているかは、たいていの人が、一度は経験して知っておられることと思いますが、私もその話を先生からきくと、小躍りしながら家へ帰って来ました。帰って両親に話してみますと、どうしても、行ってもいいとはいわないのです。
今から考えると、五円という旅費は、私の家にとっては、かなりの負担だったのでしょう。おそらく一月の一家の費用の半分にも相当した大金だったろうと思います。が、私はそんなことは、考えませんから、手を替え品を替え、父と母とに嘆願してみたのです。が、少しもききめがないのです。
もう、いよいよ明日が出発だという晩のことですが、私は学校の先生には、多分行かれない、と返事はして来たものの、行きたいと思う心は、矢も楯も堪らないのです。どうかして、やってもらいたいと思いながら、執念
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