軍に対抗するものは信長勢であった。
 先ず徳川朝倉の間に戦端が開かれた。家康は、小笠原長忠を先陣とし、右に酒井忠次、榊原康政、左に本多平八郎忠勝、内藤信重、大久保|忠世《ただよ》、自分自身は旗本を率いて正面に陣した。
 本多忠勝、榊原康政共に年二十三歳であったから、血気の働き盛りなわけであった。
 朝倉方は、黒坂備中守、小林|瑞周軒《ずいしゅうけん》、魚住|左衛門尉《さえもんのじょう》を先頭として斬ってかかった。徳川家康としても晴れの戦であったから、全軍殊死して戦い、朝倉勢も、亦よく戦った。朝倉勢左岸に迫らんとすれば、家康勢これを右岸に逐い、徳川勢右岸に迫らんとすれば、朝倉勢これを左岸に逐いすくめた。
 其の中《うち》徳川勢|稍《やや》後退した。朝倉勢、すわいくさに勝ちたるぞとて姉川を渡りて左岸に殺到したところ、徳川勢ひき寄せて、左右より之れを迎え撃った。酒井忠次、榊原康政等は姉川の上流を渡り、朝倉勢の側面から横槍を入れて無二無三に攻め立てたので、朝倉勢漸く浮き足立った。徳川勢之に乗じて追撃したので、朝倉軍|狼狽《ろうばい》して川を渡って退かんとし、大将孫三郎景健さえ乱軍の中に取り巻か
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