きをして起き上がった。その時には子供たちは復讐を恐れて十間も向うの丸葉柳の下へ集って逃げ支度をしていたが、村の若者が五、六人ばかりその代りに少年を取り囲んだ。いちばん前に出て少年の顔をじろじろ見ているのは、弥惣次《やそうじ》というて落人狩りを専門にしている男である。この男は戦争があるという噂を聞くと、いつも村中から、また隣村から仲間を狩り集めて出かけて行って、どさくさまぎれに略奪をやったり、落人に槍をつけたりした。今度も出かけて行くはずであったのだが、一月ほど前に負傷をしたのが癒《い》えないので、今でも左の手を吊っている。彼は先刻から少年の腰の物の値踏みをしているのだ。それは黄金作りの素晴らしい品物である。彼は今まで二、三本の太刀を泥棒したが、作りだけでも金三、四十枚に当る代物は、いまだかつて見たことがなかったのである。
 少年は、そういう物騒な人間がすぐ前にいることは知らなかった。彼は目から口惜し涙を二、三滴こぼしながら声を震わせて、
「館《やかた》の三浦右衛門《みうらうえもん》をよくも手込めにあわせおった」という致命的《フェータル》な独言《ひとりごと》をいった。
「おのしが右衛門か
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