たが、その物音は、うるさく続いてきました。
が、いつもは鼠が居間で暴れることはないはずだのにと考えていると、若杉さんはようやく、鼠が暴れる原因がわかりました。それは、妻の産見舞として、到来したたくさんの菓子箱や果物籠などを、棚の上に積み重ねてあったことです。それと気がつくと、若杉さんは声を出して、鼠を追おうと思いましたが、次の間に寝ている妻をおどろかしてはならぬと気がつくと、そっと自分で床を抜け出して、枕元に袖だたみにしてあった着物を着流し、寝るときに消しておいた電灯を捻りました。そして妻を起さぬようにと抜き足して、居間の方へ近づいて、襖《ふすま》を開けました。書斎の電灯の光が開いた襖の間から次の間を照しましたが、それはほんの中央部だけでした。若杉さんは、なんの気なしに次の間へ足を踏み込みました。が、その刹那、ただならぬ気配が、電灯の光の及ばない箪笥《たんす》の置かれた片隅でいたしました。人だ泥棒だと、若杉裁判長は、電気に打たれたようにそこに立ち尽しました。すると、その闇の中から頑丈な一人の大男が、すっくとばかり、若杉さんの目の前に立ちました。実際、若杉さんは、今まで被告函の中に畏《
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