ったことを、警察署が大騒ぎをやって恐喝取財という大事件にこさえ上げた観がないでもありませんでしたから。
この時、若杉裁判長は、弁護士の弁論をききながら、自分の少年時代を回想していました。すると友達の悪太郎に使嗾《しそう》せられて、隣村の林檎畑《りんごばたけ》へ夜襲《ナイトレーデ》を行ったことを、歴然と思い出しました。それは少年の心をわくわくさせるようなロマンチックな冒険でした。それは、法律的に解釈すれば、立派な野外窃盗でした。が、少年時代に、ともすれば誰でも行いやすい奔放な自由な冒険的な悪戯を、ことごとく犯罪視することが、果して正当なことでしょうか。実際、若杉裁判長の心は、この少年に対する同情でいっぱいでありました。むろん、優等生で級長であったという事実も、裁判長の心を動かしたに違いありません。
判決言い渡しの日は、この次の月曜日ということになって、法廷は閉じられました。
翌日の新聞紙は、法廷の光景を伝えると同時に、少年が執行猶予の恩典に浴すべきことを、正確なる事実として、予想してありました。被告の少年に対する同情者も、またこのことについては少しの疑念も懐いておりませんでした。
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