た。そして、少年の無鉄砲さが、時々裁判長を苦笑させました。実際、この少年は、冒険譚《ぼうけんだん》などにかぶれた少年が往々無鉄砲なことをやるのと同じような意味で、しらずしらずこの大それた犯罪に陥ったようです。要するに、少年に特有なロマンチックな傾向が、つい邪道に陥ったのに過ぎませんでした。若杉裁判長は、少年の心理に、十分同情することができました。だから、立会の検事が、少年の心理に少しの理解を持たない峻厳な論告をした時、どうしても、心のうちで首肯することができませんでした。
 弁護士の熱烈な弁護をきかない前から、執行猶予を与えるということは、裁判長の肚の中では、もうきまっていたらしいです。弁護士は、二時間に近いほどの雄弁を振いました。弁護士の弁護の力点はなんでも、この少年の犯罪は、これ少年自身の罪にあらずして、社会の罪である。換言すれば、教育家と活動写真との罪であるといったふうな主旨でした。が、実際裁判官の眼下に、蒼くなって、神妙に控えている少年を見た時は、誰でも憐憫の情を催さずには、いられませんでしたろう。色白の丸顔で、愛くるしい少年でした。実際、この少年が、ほんの悪戯《いたずら》でや
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