。柔道の方の刑事が、獅子が獲物にでも飛びつくような勢いで、電光のように飛びかかりました。刑事は、むろん一大格闘を予期して飛びついたのですが、案外にも刑事の強い腕には、女のような華奢《きゃしゃ》な身体が触りました。撃剣の方の刑事が吹いた呼子で集まった署長以下の五人は、この少年を一目見ると、皆おやおやという顔をしました。
 が、その弱々しい少年が、この恐喝取財未遂の犯人に相違ありませんでした。
 その少年が、轟々たる世評のうちに、公判に付せられたのは申すまでもありません。全体、未成年者でもあるし、微罪不検挙になるはずであったのですが、この少年が、癇癪玉でもって実際に恐喝したということが、この少年のために、非常に不利な結果を及ぼしました。
 が、この少年が予審で有罪になり、公判に付せられることになっても、この少年の同情者は、あまり失望しませんでした。公判となれば裁判長は若杉さんだ、実刑を課するようなことは決してあるまいと、皆が思っていたからです。
 第一回の公判が開かれました。若杉裁判長の冒頭の尋問には、被告に対する溢れるような同情が見えました。被告の少年も、臆面もなく犯罪事実を述べたてまし
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