も、銘々|蘇《よみがえ》ってきた春を、心のうちから貪り味わった。彼らが戦場における陰惨な苦しい過去を考えると、ガラス窓を通して、病室のうちに漂うている平和な春の光が、何物よりも貴く思われるのであった。
 ワルシャワから、コヴノ要塞にかけての戦場で、有名を轟《とどろ》かした士官候補生イワノウィッチの負傷も、もうまったく癒《い》えていた。
 彼は、露暦三月十三日の朝、いつよりも早く目をさました。のどかな春の朝であった。病院の廊下に吊るされた籠の中の駒鳥は、朝早くから鳴きしきって、負傷兵たちの夢を破っていた。イワノウィッチは、寝台の上に起き直ると、両手を思い切り広げて大きい伸びをしようとした。が、右の手だけは彼の神経の命ずる通りに動いたが、左の方には、彼の神経中枢の命令を奉ずる何物も残っていなかった。彼は苦笑した。彼にはまだ、左の手が存在するような感覚だけが残っていた。そして、その感覚のために度々|欺《あざむ》かれた。が、この朝だけは、自分が不具になったという悔恨は、少しも残っていなかった。
 彼は二、三日前、総司令部からこの日ニコライ太公が、戦線からの帰途この病院を訪うて、サン・ジョルジェ
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