たから、勝ってもちっともうれしくなかったので、その人がからかわなければいいがと思ったが、その人はいつも直木と冗談半分に喧嘩をしている人なので、いつもの通り直木をひやかした。
「茲は、俺の家だ。茲へ来て、主人たる俺をからかう奴があるか」と、云って、怒っていた。むろん、冗談ではあったが。
 その日、入院するつもりであったらしいが遅くなったのでよした。あくる日行って見ると、直木はまだ、入院しないでいた。二月一日入院の筈が、大阪への旅行や何かで、のびのびになったのである。
 昨日、負かして却って気持がわるかったから、その日は自分の方から(一番やろう)と云った。自分が誘えば、いやと云ったことのない直木である。打ちかけたが、昨日よりももっと直木はよわかった。まるで、バラバラであった。自分は、また大勝した。しかし、ちっとも愉快でなかった。
 もうこの頃は、脳膜炎の兆候があったのである。八日の日に、大学へ診察を受けに行ったが、始終頭痛がすると云っていたそうである。
 頭痛がするので、むしゃくしゃし、その気ばらしに自分と対局していたのであろうと思う。
 九日の晩、自分と碁を打ってから、直木は自動車を呼ん
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