対する軍令の一条に、
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一、一夜陣の儀に候条、乗衆《のりしゅう》の兵糧《ひょうろう》つみ申すまじく候事。
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とある。この厳島合戦は、元就の一夜陣として有名である。が、一夜の中《うち》に毛利一家の興廃を賭けたわけであるが、併し元就の心中には勝利に対する信念の勃々《ぼつぼつ》たるものがあったのではないかと思われる。
元就は鼓の浦へ着く前、今迄船中に伴って来た例の間者の座頭を捕え、「陶への内通大儀なり、汝が蔭にて入道の頭《こうべ》を見ること一日の中にあり、先へ行きて入道を待て」と云って、海に投じて血祭にした。鼓の浦へ着くと、元就「この浦は鼓の浦、上の山は博奕尾《ばくちお》か、さては戦には勝ったぞ」と言った。隆元、元春、御意の通りだと言う。つまり鼓も博奕も共に打つ[#「打つ」に傍点]ものであるから、敵を討つということに縁起をかついだものである。博奕尾は、塔の岡から数町の所で、その博奕尾から進めば、塔の岡の背面に進めるわけである。
小早川隆景の当夜の行動には二説ある。隆景は之より先、漁船に身を隠して、宮尾城の急を救う為、宮尾
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