宛《あたか》もよし、九月|晦日《みそか》は、俄《にわ》かに暴風雨が起って、風波が高く、湖のような宮島瀬戸も白浪が立騒いだ。
此の夜は流石《さすが》の敵も、油断をするだろうから、襲撃の機会到れりというので、元就は長男隆元、吉川元春など精鋭をすぐって、毛利家の兵船に分乗し、島の東北岸|鼓《つづみ》の浦へ廻航した。其の時の軍令の一端は次の如しだ。
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一、差物の儀無益にて候。
一、侍は縄しめ襷《だすき》、足軽は常の縄襷|仕《つかまつ》るべく候事。
一、惣人数《そうにんず》共に常に申聞《もうしきけ》候、白布《しろぎれ》にて鉢捲仕るべく候。
一、朝食、焼飯にて仕り候て、梅干相添|申《もうし》、先づ梅干を先へ給《きゅうし》候て、後に焼飯給申すべく候。
一、山坂にて候条、水入腰に付申候事。
一、一切高声仕り候者これあらば、きつと成敗《せいばい》仕るべく候。
一、合言葉、勝つか[#「勝つか」に傍点]とかけるべく候、勝々[#「勝々」に傍点]と答へ申す可く候。
[#ここで字下げ終わり]
とても縁起のよい合言葉である。勝つかと言えば勝々と答えるわけである。水軍へ
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