軍である。
だから平場《ひらば》の戦いでは、毛利は到底、陶の敵ではない。そこで元就が考えたのは、厳島に築城する事だ。
元就は、厳島に築城して、ここが毛利にとって大切な場所であるように見せかけ、ここへ陶の大軍を誘《おび》き寄せて、狭隘の地に於て、無二の一戦を試みようとしたのである。
元就が厳島へ築城を初めると、元就の隠謀を知らない家臣はみんな反対した。「あんな所へ城を築いて若《も》しこれが陶に取られると、安芸はその胴腹に匕首《ひしゅ》を擬せられるようなものである」と。
元就はそういう家臣の反対を押切って、今の要害|鼻《はな》に城を築いた。現在連絡船で厳島へ渡ると、その船着場の後の小高い山がこの城址である。城は弘治元年六月頃に完成した。
すると元就は家来達に対して、「お前達の諫《いさめ》を聞かないで厳島に城を築いて見たが、よく考えてみると、ひどい失策をしたもんだ。敵に取られる為に城を築いたようなもんだ。あすこを取られては味方の一大事である」と言った。
戦国の世は、日本同士の戦争であるから、スパイは、敵にも味方にも沢山入り混っていたわけだから、元就のこういう後悔はすぐ敵方へ知れる
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