ろよく受け入れることができた。
「が、申しておく、あの服折や兜は、申さば中村新兵衛の形じゃわ。そなたが、あの品々を身に着けるうえは、われらほどの肝魂《きもたま》を持たいではかなわぬことぞ」と言いながら、新兵衛はまた高らかに笑った。

 そのあくる日、摂津平野の一角で、松山勢は、大和の筒井順慶の兵と鎬《しのぎ》をけずった。戦いが始まる前いつものように猩々緋の武者が唐冠の兜を朝日に輝かしながら、敵勢を尻目にかけて、大きく輪乗りをしたかと思うと、駒《こま》の頭を立てなおして、一気に敵陣に乗り入った。
 吹き分けられるように、敵陣の一角が乱れたところを、猩々緋の武者は鎗をつけたかと思うと、早くも三、四人の端武者を、突き伏せて、またゆうゆうと味方の陣へ引き返した。
 その日に限って、黒皮|縅《おどし》の冑《よろい》を着て、南蛮鉄の兜をかぶっていた中村新兵衛は、会心の微笑を含みながら、猩々緋の武者のはなばなしい武者ぶりをながめていた。そして自分の形だけすらこれほどの力をもっているということに、かなり大きい誇りを感じていた。
 彼は二番鎗は、自分が合わそうと思ったので、駒を乗り出すと、一文字に敵陣に
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