た。また嵐《あらし》のように敵陣に殺到するとき、その先頭に輝いている唐冠の兜は、敵にとってどれほどの脅威であるかわからなかった。
こうして鎗中村の猩々緋と唐冠の兜は、戦場の華《はな》であり敵に対する脅威であり味方にとっては信頼の的《まと》であった。
「新兵衛どの、おり入ってお願いがある」と元服してからまだ間もないらしい美男の士《さむらい》は、新兵衛の前に手を突いた。
「なにごとじゃ、そなたとわれらの間に、さような辞儀はいらぬぞ。望みというを、はよういうて見い」と育ぐくむような慈顔をもって、新兵衛は相手を見た。
その若い士《さむらい》は、新兵衛の主君松山新介の側腹の子であった。そして、幼少のころから、新兵衛が守り役として、わが子のようにいつくしみ育ててきたのであった。
「ほかのことでもおりない。明日はわれらの初陣《ういじん》じゃほどに、なんぞはなばなしい手柄をしてみたい。ついてはお身さまの猩々緋と唐冠の兜を借《か》してたもらぬか。あの服折と兜とを着て、敵の眼をおどろかしてみとうござる」
「ハハハハ念もないことじゃ」新兵衛は高らかに笑った。新兵衛は、相手の子供らしい無邪気な功名心をここ
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