める引合として、きっと鈴木兄弟を貶《けな》した。
「鈴木忠三郎は、兄を迎えるために、便々と日を過したというが、幸太郎殿の分別とは雲泥の違いじゃ。敵を探し出しながら、おめおめと病死させるとはなんといううつけ者じゃ」
 が、そんな非難はまだよい方だった。
「三十年の辛抱に比ぶれば、八年の辛苦がなんじゃ」
「八年探して、根の尽きる武士《さむらい》に、幸太郎兄弟の爪の垢でも、煎じて飲ませたい」
 世評は、成功者を九天の上に祭り上げると共に、失敗者を奈落の底へまで突き落さねば止まなかった。
 幸太郎兄弟が帰参してから十日ばかり経った頃だった。兄弟の帰参を祝う酒宴が、親類縁者によって開かれた。
 幸か不幸か、鈴木忠次郎は、久米家とは遠い縁者に当っていた。彼は、病気といってその席に連《つら》なるまいかと思ったが、悪意のある世評が、「あれ見よ。鈴木忠次郎は、面目なさに幸太郎殿の祝宴から逃げたぞよ」と、後指を指すことは、目に見えているように思われた。
 きかぬ気の彼は、必死の覚悟でその酒宴に連なった。彼は初めから黙々として、一言も口を利かなかった。一座の者の幸太郎兄弟に対する賞賛が、ことごとく針のように
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