「おられます」
 内匠頭は、廊下へ出で、高家衆の溜《たまり》へ歩きつつ、
(上野にきくのは、残念だが……)と思った。
(しかし、伊達にききにやるのも面目にかかわるし……)
 そう思って、松の間の廊下へ出たとき、上野が向うから歩いて来た。
「しばらく」
 上野は、じろっ! と内匠頭を見て、立ち留った。
「明日、模様替えがありますそうで、どういう風に……」
「知らないのか」
「ききもらしましたが、どうかお教えを!」
「ききもらした! 不念な。どこで何をしていた?」
「ちょっと忙《せわ》しくて」
「忙しいのは、お互いだ」
 上野は、行き過ぎようとした。
「しばらく、どうぞ明日の」といって、右手で上野の袖をつかんで引いた。
「何をする!」上野は、腕を振って、大声を出した。腕が内匠頭の手に当った。
「何一つ、わしのいうことをきかずにおいて、今更のめのめと何をきく?」
 上野が、大声を出したので、梶川が襖を開けて、顔を出した。内匠頭は蒼白になっていた。
「わしを、あるか無しかに扱いながら、自分が困ると、袖を引き止めて何をきくか?」
 上野は、内匠頭がだまっているので、
「ばかばかしい!」と呟い
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